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(2)日本の歴史ともかかわる 明治期の豪邸、赤松館

(2)日本の歴史ともかかわる 明治期の豪邸、赤松館

2017年12月16日
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庭園から見た主屋。1階では庭を三方から眺める座敷や客間、2階の展示室が見学できます

田浦の甘夏ミカンの発展に一役を買い、料理研究家として有名な江上トミさんの生家「赤松館(せきしょうかん)」を訪ねました。

母方の姓を継ぎ、料理研究家としてお茶の間に親しまれた江上トミ

「赤松館」は、明治から昭和にかけ大地主として栄えた藤崎家の住宅です。

藤崎家は、江戸時代には田浦手永浜町村(現在の田浦町)の庄屋を務め、戦前までは芦北や八代に100ヘクタール超える土地を所有していました。

赤松館は、5代目当主の藤崎彌一郎(やいちろう)が「芦北に一流の人を招くための迎賓館を建てたい」との思いで明治26(1893)年に着工しました。白壁しっくいの塀を巡らせた重厚な屋敷で、国の登録有形文化財となっています。

「赤松館」を建てた藤崎彌一郎。細川藩の御用窯・高田焼上野家から藤崎家に養子に入りました

トミの弟で6代目を継いだ彌熊と妻のツネ。昭和3年に、ツネを伴い英国へ留学。その時にツネが学んだ西洋料理が、カフェの名物カレーになりました

玄関前にある大きなソテツ。格式に満ちた表玄関を上がると畳の間があり、ずいぶんとぜいたくな空間です。その先のらせん状の階段を上る時、手すりの細工や暖色のしっくいの壁に主のこだわりを感じます。

きれいに掃き清められた「赤松館」の玄関。大地主の邸宅らしい風格が漂います

ツヤツヤと輝くケヤキのらせん階段

2階は藤崎家で使われていた生活道具や書籍などが展示されていますが、実は、この家の建設が始まった翌年、日清戦争が勃発したため工事は中断されました。むき出しの大きな梁や壁はそのまま残っており、当時の建築様式を知ることができる貴重な資料となっています。

2階には、蓄音機やラジオ、扇風機、照明器具など、当時の最先端の家電が展示されています

小説や文芸誌、海外の写真雑誌など、藤崎家で読み継がれてきた古い本も必見です

6つのたき口が連なる珍しいかまどを設けたかま屋(台所)。トミも子どもの頃から母・アサの手伝いでかまどを使っていたそうです

さて、江上トミは、5代目の彌一郎と妻・アサの長女としてこの家で生まれました。幼少時代は藤崎トミとして育ちましたが、その後「江上」を名乗ったのには理由がありました。

母のアサは、かつて武家だった南関町の江上家の娘で、16歳の時に荒尾の宮崎八郎の許嫁(いいなずけ)になりました。

八郎は、自由民権運動を支持した思想家で、実弟は中国の辛亥革命を支えた宮崎滔天です。

八郎は明治10(1877)年の西南戦争で戦死。アサは独り身を貫くことを決心します。

ところが32歳のときに、先妻を亡くした彌一郎の後添えになる縁談が持ち込まれました。

その時、アサが申し出たのが「二人の最初の子どもが男であれ女であれ、実家の江上家を継ぐ養子にすること」でした。

それを彌一郎は聞き入れました。そして2人に初めて授かった長女がトミだったわけです。

一方の彌一郎は「国民新聞」を発行した徳富蘇峰を支援したり、熊本女学校の設立に力を貸すなど、郷土の発展に尽力した人物でした。藤崎家と関わりのあった、歴史上の偉人たちも多くおり、赤松館を訪ねると、明治から昭和にかけての日本の歴史の断片に触れることができます。

現在は7代目の正彌さん(84)、節子(79)さん夫婦が「赤松館」の建物を慈しみながら暮らしており、座敷や客間などが一般公開されています。

実家の「赤松館」を残したいという思いで、三菱重工を退職して、引退後に東京から田浦に移り住んだ藤崎正彌さん・節子さん夫妻。節子さんは、赤松館に残る古布や着物を再生し、パッチワークキルトを製作しています

「ここには、いいものがたくさん残っています」と節子さん。アサの羽織の裏地で作ったクッションカバーをはじめ、藤崎家の宝物が節子さんの手によって素敵に生まれ変わっていました

「赤松館」の米蔵を改装した「カフェ米蔵」からスパイシーな香りが漂ってきました。ここでは名物の「赤松館百年伽哩(カリー)」を食べることができます。6代目・藤崎彌熊の英国留学に同行した妻・ツネが持ち帰ったレシピを元に再現したカレーで、まさに100年の時を超えていただける味です。

「“百年伽哩”で、昔と今のカレーを食べ比べを楽しんで」と「カフェ米蔵」スタッフの坂本梓織さん(36・左)、木本鶴子さん(64)

「赤松館」に併設された「カフェ米蔵」でいただける名物の「赤松館百年伽哩(カリー)」1000円。一皿に2種類のカレーが入っています。皿の下半分が100年前のレシピを再現したカレー、上半分がそのカレーを現代風にアレンジしたもの(要予約)

藤崎家住宅 赤松館

  • 芦北町田浦788
  • TEL.0966-87-2866
  • 開館日/土・日・月曜(土・日・月曜以外は要予約)※12月26日〜1月5日まで休館
  • 開館時間/10時~16時
  • 入館料/大人500円、中学生以下無料