
屋根の上に2つの「湯気ぬき屋根」。天井の穴の高さを変えることで、スムーズに換気を行う工夫がされた「松の湯」
日奈久温泉には現在、17の温泉旅館のほかに3つの共同温泉があり、自宅のお風呂を使うような感覚で共同温泉を利用する住民も多いといいます。
「松の湯」は、明治元年に建てられた佐敷警察署日奈久分署の建物を改装し、昭和6年に創業した共同温泉です。脱衣所と一体型の浴室、浴室の天井に煙突のような穴をあけた「湯気(ほけ)ぬき屋根」がある様子は、まるで昭和にタイムスリップしたよう。
一番風呂を楽しみに通う地元の常連客も多く、この日もオープン間もなく、ひとりふたりと入浴客がやってきました。

世間話を交わしてお風呂へ。地域のなかに温泉がある風景はいいものです

昔ながらの湯札も健在

浴槽は懐かしいタイル張り。奥の湯口に近い方の湯が熱めで、手前がぬるめです
「毎日同じ時間に来てくださるお客さまも多く、番台越しにお客さまと会話をするのが楽しみなんです」と、3代目の松本峰高さん(57)・和子さん(56)夫妻。
湯船に浸かって見知らぬ人とも会話を弾ませ、よその子どもでもマナーなどが気になれば、優しく諭す人もいる共同温泉。人と人の心の通う場所でもあります。

右から「松の湯」の松本峰高さんと和子さん、娘の花織さん(29)と娘婿の槙一朗さん(28)
松の湯
- 八代市日奈久中西町380-1
- TEL.0965-38-0573
- 営/8時半~20時半
- 休/第2・4火曜
- 入浴料/200円(子ども100円)
- 貸切湯/1時間1500円
- http://matsunoyu.iinaa.net/
目に映るものすべてに歴史の重みを感じます
レトロな町並みも日奈久の魅力。温泉街の中に点在する木造旅館は、明治末期から昭和にかけての繁栄期の名残を今に伝えます。創業明治42(1909)年の「金波楼」もそのひとつです。国の登録有形文化財にも指定された、木造三階建て。黒光りするほど磨かれた桜の板の廊下や、装飾の美しい階段など、目に映るものすべてに歴史の重みを感じます。

黒光りするほど磨かれた廊下に、深緑が映えます=金波楼
冬場には八代名物のかんきつ類・晩白柚(ばんぺいゆ)を浮かべた湯を楽しめることでも知られます。最近は、晩白柚精油を使ったアロマクラフト体験が人気です。レクチャーしてくれるのは同館おかみで「日奈久温泉YOU・湯の会」事務局長でもある松本美佐緒さん(63)です。

「アロマクラフトのほか、ちくわ作り体験もできますよ」と「金波楼」おかみの松本美佐緒さんと専務の松本啓佑さん(37)

八代市商工会と八代高専とのコラボで生まれた晩白柚精油(右)。精油抽出に用いる外皮の処理は、おかみたちの手仕事です=金波楼のアロマクラフト体験で使用(40分1500円)
「特産の晩白柚のことをもっと知っていただきたくてアロマクリームの手作り体験をしています。ご家族連れや海外のお客さまにも人気ですよ」。
晩白柚のさわやかな香りは、外の暑さも忘れるほど。旅の思い出作りとしてもおすすめです。

金波楼前の通りは、絵のモチーフとしても人気。この日も炎天下にもかかわらず、絵を描く人の姿がありました
金波楼
- 八代市日奈久上西町336-3
- TEL.0965-38-0611
- 立ち寄り湯/15時半~21時(土・日曜、祝日は12時~)
- 入湯料/500円
- 宿泊/1泊2食 1万5270円~(入湯税込)
- 晩白柚アロマクラフト体験 1人1500円(40分)
各情報は掲載時のものです。料金や内容が変わっている場合もあります。