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(3)木造三階建ての老舗旅館 ひ孫が営業再開

金魚の絵付けがされた上村さんの作品

(3)木造三階建ての老舗旅館 ひ孫が営業再開

2017年6月3日
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紆余(うよ)曲折を経て、撤去が進む県営荒瀬ダム

日本で初めてのダム撤去。県営荒瀬ダム撤去は平成29年度の工事完了予定です。3年前に訪れたときとは違い、ダム本体の姿はすっかりなくなり、うっかりすれば通り過ぎてしまいそうです。緩やかに流れる川面は以前より青々と深みを増しているように感じられます。

ダムから3キロほど上流の川沿い。JR肥薩線が通るトンネルのすぐ脇に、風情ある三階建ての日本家屋が立っています。昨年11月に営業を再開した「鶴之湯旅館」です。

木造三階、地下一階の老舗旅館「鶴之湯旅館」

同館は、1954(昭和29)年に創業しましたが、その後、ダム湖観光が落ち込み、ボート合宿で訪れる学生らも減ったため、10年ほど前から休業状態になっていました。

「価値ある建物を後世に残したい」と、創業者のひ孫、土山大典(だいすけ)さん(34)が、同館の営業を再開しました。

時が止まったような館内。床は磨かれて黒光りしています

建物の中に入ると、そこには、昭和の古きよき時代の香りが漂っていました。当時の職人たちが意匠を凝らした木造建築は、年月を経て風格を増しています。2階の広間には、かつて旅役者が舞ったという舞台がそのまま残っており、にぎやかだった宴席のシーンが浮かんでくるようです。

「鶴之湯旅館」の2階の窓からは、JR肥薩線を行き交う特急列車「かわせみやませみ」を間近に見ることができます

「鶴之湯旅館」の2階から見える球磨川の風景。かつては、観光客向けの遊覧船も運航していました

子どもの頃、母・照子さん(69)が切り盛りする旅館の手伝いをしていたという土山さん。

「この旅館にご縁のある人たちが、『ここで結婚式を挙げたんだよ』などと懐かしがってくださるのがうれしくて」

近ごろは、外国人に人気があるそうで、日本滞在中に数回も宿泊をした客もいるそうです。

「いろんな人が集まって楽しめる場を提供したいですね」と土山さんは目を輝かせます。

韓国で料理人の経験もある「鶴之湯旅館」の土山大典さん

鶴之湯旅館

  • 八代市坂本町葉木1007-2
  • TEL.0965-45-8050
  • 宿泊料金/6237円~(1泊2食付き)※一日2組限定
  • ランチ/700円~(2日前までの要予約)、コーヒー(300円)
  • 休/不定休
  • ※買い出しなどで不在の時がありますので、ご連絡下さい
 

ろくろを使わず「手づくね」と呼ばれる手法で成形された黒楽茶碗

鶴之湯旅館内には小さなギャラリーがあります。ここには、坂本町に「一夢庵風流窯」を構える上村慶次郎さん(47)の作品が並んでいます。

上村さんが作ったさまざまな茶わんが展示されています

中でも、ろくろを使わず「手づくね」と呼ばれる手法で成形された黒楽茶碗は、艶を抑えた渋みが漂います。一方、金魚の絵付けがほどこされた作品など、作陶の幅の広さがうかがえます。それにしても、上村さんの履歴が、実に個性的です。

金魚の絵付けがされた上村さんの作品

「18歳のころ、東京でイラストレーターをしていました。その後、パン職人、営業職といろいろ職を変えましたが、型枠大工をしたことが作陶を始めるきっかけになったんです」

仕事場で見つけた粘土質の土を手にしたことで作陶に興味を持ち、当時、東京八王子市在住の作家の故・吉田明さんに師事し陶芸の道を志したそうです。その後、故郷に戻り、工房を開きました。

上村さんは人柄もユニーク。小皿の注文を受け、マリリンモンローを描いた絵皿を作ったそうですが「この皿にしょうゆは合わんな」と言われてしまいました。「鉄分の多い土を使ったせいか、せっかく描いたモンローの1個のほくろが、焼き具合で顔中がほくだらけになって、それがいかんかったのかな?」と、上村さんはそんなジョークで楽しませてくれたのでした。

上村慶次郎さん作のマリリンモンローを描いた小皿

「一夢庵風流窯」の上村慶次郎さん

一夢庵風流窯