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(1)100年前に開業した鉄道 懐かしき面影を探して

「薪焼きトロけるスペアリブ、赤ワインとスパイスの煮込み」

(1)100年前に開業した鉄道 懐かしき面影を探して

2016年1月9日
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昭和30年代に撮影された熊延鉄道の写真。釈迦院駅は、田んぼに囲まれていました

久しぶりに訪れた美里町。国道218号沿いの木立は、冬ざれの景色へと移ろい、遠くに見える山々は、霧のような雲に覆われています。中腹からうっすらと顔を出す頂は、朝もやにかすむ島影のようです。

美里町境地区には、50年ほど前まで鉄道の駅があり、その名残をとどめている場所があると聞きました。

かつて美里町には「熊延(ゆうえん)鉄道」という鉄道がありました。社名は、熊本と延岡(宮崎県)を結ぶ鉄道として計画されたことに由来しています。現JR南熊本駅(熊本市中央区)から「砥用駅」(美里町)間を、山から切り出された木材の運搬や庶民の生活の足として走っていました。

1915(大正4)年に開業した鉄道は、1964(昭和39)年に廃止。今年は開業して100年という節目の年にあたり、13日(水)の熊本市、甲佐町の開幕を皮切りに、嘉島町、御船町、美里町などかつての鉄道沿線1市4町の6会場で写真展が開かれます。

境地区には、緑川の支流・津留川が流れています。川沿いの閑静な住宅街にある民家に目をやると、壁に「しゃかいん」と書かれた看板が掛かっていました。「ここには昔、釈迦院駅(しゃかいんえき)という駅があって、にぎわっとったっですよ」と語るのは、この家に住む林弘明さん(80)。

林さんの父・森平(もりへい)さんは、熊延鉄道の職員で、家族3人でこの駅舎を守ってきたそうです。

廃線後のある日、家の中から、当時の駅名標が出てきたそう。弘明さんは感慨深い思いで、自宅の壁に張っているのだそうです。

廃止される直前の熊延鉄道の写真が、林さん宅の玄関に飾られていました。田んぼを貫くように、もうもうと煙を吐く蒸気機関車が、この地に走っていたなんて、今ではまったく想像できません。

「田んぼで仕事をする人たちは、列車の往来を時計代わりにしていたかもしれませんね」という林さんの言葉に、ありふれた日常の隣に、いつも鉄道があったことを感じるのでした。

「しゃかいん」と書かれた駅名標。「釈迦院寺」は“西の高野山”と呼ばれ、花祭りの時は、駅から寺に向かう行列ができていたそうです

「保線員さんが線路の点検に来られるときは、母が手料理で、もてなしていましたね」と語る林弘明さん

釈迦院橋から津留川をのぞむ風景。朝もやの向こうに山がかすんで見えました

急峻(きゅうしゅん)な川が幾筋もある美里町は、昔から頑丈な石橋が多くかけられてきました。石橋の里とも言われ、そのシンボル的な存在が1847(弘化4)年築造の「霊台橋」(れいだいきょう)=国指定重要文化財=です。

優美なアーチ姿の霊台橋は人気の観光スポット。ほとんどの観光客は気づかないかもしれませんが、橋の南側の石垣をよくよく見ると、ぽっかりと穴が空いています。熊延鉄道の支線「内大臣森林鉄道」のトンネルの跡です。

目の前に古民家造りのシックなカフェがあります。ここでちょっと休憩することにしました。

ダイニングカフェ「ザ・キーストンガーデン」オーナーの神戸(かんべ)隆貴さん(58)は、清流・緑川と霊台橋が織りなす景観が気に入り、1年半前に店をオープンさせました。

霊台橋のたもとにある古民家を改造したカフェ「ザ・キーストン・ガーデン」

霊台橋の南側の壁に残る「内大臣森林鉄道」のトンネルの跡

店内2階から見える霊台橋。神戸さんは、ここで橋を見ながらワインを飲むひとときが好きなのだそうです=「ザ・キーストン・ガーデン」

店内には、グリッシーニやインドのスパイスなど、オリジナル商品が並ぶ

店内にはおいしい香りが漂い、床はピカピカに磨き上げられています。靴を脱いで上がろうとすると「土足のままでどうぞ」と神戸さん。こういったもてなしに心を奪われます。

黒光りのする階段を上ると、目の前に現れるのは、迫力満点の霊台橋。暖かい部屋でアツアツの「薪焼きトロけるスペアリブ、赤ワインとスパイスの煮込み」をいただきながら眺める冬景色に、ぜいたくなひとときを手に入れた気分になりました。

「薪焼きトロけるスペアリブ、赤ワインとスパイスの煮込み」。自家製のデザート&ドリンク付きで2500円

「インパクトのある店でありたい」と語る「ザ・キーストン・ガーデン」の神戸隆貴さん

「熊延鉄道」廃線跡の八角形トンネル。なんだか吸い込まれそう=資料写真

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ザ・キーストン・ガーデン