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(1)風を読み、潮を読む 自然に寄り添う伝統漁法

動力を使うのは、漁場への往復のみ

(1)風を読み、潮を読む 自然に寄り添う伝統漁法

2015年10月3日
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朝の計石漁港には、風を待つうたせ船が並んでいました

風の力で網を引くうたせ船。マストは長いもので約13mもあります

肌寒い秋の明け方、ほのかに空が白み始めました。昇りはじめた太陽が空を琥珀色に映したかと思えば、おだやかな海に、一筋の光が差し、キラキラとした朝が始まりました。

不知火海の入江にある計石(はかりいし)漁港。沖合には、たっぷりと風をはらませ、たゆたう、うたせ船。その優美な姿は、「海の貴婦人」と呼ばれます。

秋の明け方の空=計石漁港

帆に受けた風の力で、海底をすべらせるように網を引く伝統的な漁法「うたせ船漁」。江戸時代に瀬戸内海で発祥し、芦北の地へ伝わったのは明治初期のことです。計石地区では今も14隻が操業を続けており、遠山正治さん(49)と菊江さん(49)の夫婦船「第二寿福丸」もそのひとつです。計石港を出ると、三つの小島が並ぶ「三ツ島」の脇を抜けて、目の前に浮かぶ御所浦島方面を目指し、沖へと向かいます。

「昔は網を上げるたびにエビや魚がびっしりでね。15cmくらいのアシアカエビが50〜60匹かかったときの興奮といったら。早く親父のような漁師になりたいと子供心に憧れたものです」と語る正治さん。

妻の菊江さんは4人の子どもの子育てをしながら、正治さんの船を支えています。

「嫁いで来た頃はロープの結び方もわからなくて戸惑うことばかりでした。すべてが風次第だから休みも出かける時間もまちまちで、子どもが小さいうちは大変やったね」と懐かしそうに振り返ります。

動力を使うのは、漁場への往復のみ

右から順に、遠山正治さん・菊江さん、菊江さんの弟の福山幸輝さん(45)

漁場に着き、船のエンジン音がぴたりと止みました。静けさがあたりを包みます。

「ほーい、やろかい」

正治さんのひと声で、船上が慌ただしく動き始めます。長さ14mほどの丸太を前後に突き出し、帆を掲げると、白い帆はたちまち風をふくませ、船を導き始めました。

うたせ船の移動速度は、人が普通に歩くくらいのスピードだそうです。続いて大きな袋網が次々と海へ投げ込まれます。離れて眺める優美な印象とは裏腹に、船上は力仕事の連続。それでも不思議とせわしさを感じないのは、ちゃぷんちゃぷんと船縁(ふなべり)をたたくのんびりとした波音のせいでしょうか。

正治さんのかけ声でおもむろに立ち上がり、丸太を船首へと引っ張り出す菊江さん

網を引き上げるまで正治さんは太刀魚釣りをします。傍らで、菊江さんはまな板を取り出し、ガラカブをさばき始めました。朝食の準備のようです。

「今日はガラカブのみそ汁。釣れたてだけんおいしかよ」

干しエビをごはんと一緒に炊き込んだおむすびは、エビの風味がたっぷり染みていて、思わず2個、3個とつまんでしまうほど。そこに出来たてのお味噌汁を一口。これぞ、郷土のごちそうです。

「今から旬を迎えるアシアカエビは、北風で捕るんです。11月からは毎日いい風が出るから、忙しくなりますね」と菊江さんがほがらかな笑顔を向けます。

風のない日は漁もお休み。焦らず無理をせず、自然と寄り添うように行われる古来の漁法が、不知火海の豊かな恵みを守っているようにも思えます。

太刀魚釣りの糸を垂らし、のんびりと待ちます

この日の水揚げは、イシエビやシャク、ヒイカにタコ、そしてハモ!

甲板でピチピチと跳ね回るイシエビを、生のままいただきました。身がプルッと締まって甘く、海水の塩っぽさも美味

干しエビや生エビなどを炊き込むエビ飯は計石地区の漁師料理

菊江さんが甲板で作ってくれたガラカブのみそ汁。ホッとするおいしさでした

「『観光うたせ船』は通常チャーター便での運航ですが、10月末までは1人5200円で乗り合い運航をしています」と、芦北町漁協組合長の八里政夫さん(66)

問い合わせ

観光うたせ船(芦北町漁業協同組合)

  • 葦北郡芦北町計石2963
  • TEL.0966-82-3936
  • 問/8時〜17時
  • 休/火曜、毎月第2土曜、7月の第3月曜(海の日)
  • 観光うたせ船乗船料4万3200円(定員12人)、所要時間約3時間
  • ※10月31日までは「乗り合いキャンペーン」として、一人5200円(小学生未満半額)で乗船できます
  • ※いずれも5日前までの要予約
  • ※荒天時は欠航です