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(2)和紙が作る光と影に 夏の涼がさざめいて

。逆光に浮かぶ和紙タペストリーの模様

(2)和紙が作る光と影に 夏の涼がさざめいて

2015年8月15日
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「懐水集」正面の庭

家の裏手にある小さな滝が注ぐ涼しげな池

不知火町浦上地区にある築百年の古民家。家を囲むうっそうとした木立が、古びた屋根瓦にくっきりと濃い陰を落としています。

ここで和紙販売とカフェ「懐水集(かいすいしゅう)」を営むのが、福本千由美さん(52)と娘の有花さん(31)親子です。

玄関前を流れる小川にかかるかわいらしい橋を渡って家の中へ。外の猛暑がうそのようにひんやりとした静けさが広がる土間で、昔懐かしい上がり框(がまち)に腰を下ろしました。

どこからともなく水のせせらぎが聞こえ、サラサラという音が耳にも涼を運んできます。

「外から流れてくる湧水の音です。他に、庭にも湧水が自噴していて、裏に小さな滝もあります。それで、ここは昔から〝水屋敷”と呼ばれていたんですって」と千由美さん。15年ほど前、この家が気に入って元の家主から譲り受けたそうです。

あかりのシェードやふすまの和紙が、時を経た柱や黒光りする床に調和する「懐水集」の室内

ほの暗い土間から玄関を通して望む庭は、まるで日本画の掛け軸のよう

納戸のように使われていたという玄関横の部屋では、和紙や小物を展示販売

淡い茜(あかね)色や朽葉(くちば)色など、展示された和紙の古色を帯びたグラデーションに目をひかれます

緑濃い庭から入る風が奥へと吹き抜けていきます。逆光に浮かぶ和紙タペストリーの模様が美しい

その湧水で炊くかまどご飯のランチがあると聞き、さっそく作ってもらいました。有花さんが裏庭のかまどでご飯を炊き始めると、いぶしたような煙の匂いと甘いご飯の匂いが入り混じって家中に流れ込みます。空腹とともに胸の中の郷愁をくすぐられるよう・・・。

幼いころ、かまど炊きのごはんを食べさせてくれたおばあちゃんの家も、こんな匂いに包まれていた気がします。

炊き上がるまでのひとときは、玄関前の小川に手を浸しては上がり框に戻って休んだり、庭を眺めたり・・・・。何をするともなく玄関を出たり入ったりして過ごすひとときが、何とも心地いいのです。

そうこうしているうちに、かまど炊きご飯の「おにぎりランチ」の出来上がり。アツアツのおにぎりはおこげが香ばしく、夢中でほおばります。おかずは、水に浸した涼しげな青葉に盛られたナスの味噌よごしや旬の野菜のきんぴら。そのおいしさに、箸の休まる間もありません。

かまどやタイル貼りの流し台など、ノスタルジックな匂いに満ちた台所

手作りの野菜料理などが並ぶ「おにぎりランチ」(1200円・要予約)。旬の野菜を使うため内容は時季により異なります

地元特産の凍らせたイチジクも一緒に削った湧水のかき氷(350円)も人気

「おにぎりランチ」は手作りの「焼きだご」とコーヒー付き。表面は香ばしく中はもちもちの食感。黒砂糖の優しい甘さが広がります。「焼きだご」とコーヒーのセット(600円)のみの注文もOK

すりガラスの戸が開かれた縁側。その風情に誘われてちょっと腰を下ろしたくなります

味わいのある庭の椅子にさりげなく置かれた盆栽

お腹も満ちてくると、タイル貼りの台所の横に、古めかしい柱時計が掛かっているのに気付きました。有花さんが、「ずいぶん昔の物だけど、まだ動くんですよ」と付属のネジを差し込んで巻くと、動き出した大きな振り子とともに、柱時計がまた時を刻み始めます。

食後は屋敷の中を一巡り。一世紀を経た太い柱や土壁に合わせて新しくアレンジした和紙の壁紙は、まるで家とともに時を過ごしてきたようにしっとりと渋い色合いです。

見上げる天井は歳月がかもしだすツヤを放ち、新しい主に受け継がれて命をつないだこの家が喜んでいるように感じました。

右がオーナーの福本千由美さん。隣は娘の有花さん

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懐水集