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(1)村が緑に染まる八十八夜 集落のよりどころ”お堂さん“

林シズ子さん(左)と黒木トメ子さん

(1)村が緑に染まる八十八夜 集落のよりどころ”お堂さん“

2015年5月2日
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上平野地区の共同水場の近くにかけ干しされていた高菜の葉。農耕具や水くみ用のボトルなどもあり、住民の暮らしぶりが垣間見えます

谷間からわき立つ薫風。清らかな流れをたたえる川辺川のほとりは、あちこちで野鳥の高らかなさえずりが響き渡ります。山の斜面に鮮やかな緑のしま模様を描くのは、お茶の畝(うね)です。

標高が高い五木村では、朝夕の寒暖差や川から立ち上る霧のおかげで良質な茶葉が育ちます。山の斜面だけでなく、生け垣代わりに茶の木を植えている民家もあるほどです。

5月2日は「八十八夜」。立春から数えて88日目です。一年かけてじっくりとうま味を育てたお茶は、春から夏へと移り変わるこの時季に摘んだものが最もおいしく、飲めば長生きするとも言われていました。今月9〜10日に開かれる「五木のふるさと新緑祭り」では、新茶の釜いりや昔ながらの茶もみを体験できます。

川辺川とその支流をたどると川沿いに集落が点在しています。集落には、仏像や観音堂などを祭った堂宇(どうう)があり、住民たちは親しみを込めて「お堂(どう)さん」と呼んでいます。

上平野地区にある「平野薬師堂」もそのひとつです。

集落の玄関口にある平野薬師堂。周りには、3本の銀杏の大木がそびえています。「2本が雌木で、1本が雄木。お堂さんが真ん中にあるけん、ケンカせんげな」という久保田さんの言葉に、じわじわと笑いがこみ上げてきました

上平野地区の共同水場。取材中も庭先の花にあげる水を汲みに来た人や、通りがかりでのどを潤す人、野菜を洗う人などの姿が見られました

カメラを向けられ気恥ずかしそうに笑う、林シズ子さん(左)と黒木トメ子さん

「正月の餅つきや、盆のだんごを作るときは、お堂さんに寄って作っとですたい」と話すのは、毎朝、供花の水を替え、堂内を拭き清めているという林シズ子さん(87)。

お堂の縁側には使い込まれたやかんや竹を切って作った“かっぽ”が置かれ、日常的にお茶やお酒を楽しむのだそうです。乗り合いバスの待合所も兼ねるなど、ここは、暮らしのよりどころとなっているようです。

「平野薬師堂」の裏手には山の谷水をひいた共同の水場があり、12世帯の暮らしを潤しています。

赤大根を手にしてやってきたのは黒木トメ子さん(77)。取材であることを告げると、「恥ずかしかけん、私ん名前は出さんでよかー」と照れ笑い。隣で聞いていた林さんが「なーん恥ずかしかろか、あたも私と同じカタカナ名前じゃろもん?」と茶化します。たわいもないやりとりに集落の日常を見たようで、心が温かくなりました。

平野薬師堂の傍らには、この地区出身で江戸相撲の名力士「熊ヶ嶽猪之助(くまがたけいのすけ)」の墓があります

林さんのご自宅にあった五右衛門風呂。「家んなかにもお風呂はありますですばってん、やっぱり薪でわかした風呂がよかですもんね。息子たちもこっちがよかて言います」

“お堂さん”のそばで、筒状にくり抜かれた丸太を見つけました。

「こら、ミツバチの巣箱にすっとたい。昔から年寄りん人たちがしよったとを、マネたっですよ」と、久保田義則さん(60)。ご自宅の庭先に一年前から置かれている巣箱には、小さなミツバチがブンブンと羽音をたて、忙しなく出入りしています。

「せっかく来たけん、ジネンジョを持って帰らんね。15分くらい待つなら、掘ってやるけん」

日当たりのいい久保田さんの畑では、季節の野菜やウド、ノビルも勢いよく成長していました。


1年かけて育てたジネンジョを掘り出す、久保田さん。「2年すっとまーだ太うなっとですけどね」

久保田さんの地蜂蜜。「四季の里」でも販売されていますが、売り切れの場合は10月以降の販売となります。価格は時価(一升瓶1本1万6000円前後)

蜂蜜を作る際に取り出したミツロウ。新たに巣箱を設置する際、木の洞(うろ)に塗り込むことで、再びミツバチがやってくるようになるのだそう