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(1)浴衣がけで歩きたい道 郷愁誘うかき氷の暖簾

湯の児島にある「願掛け亀」

(1)浴衣がけで歩きたい道 郷愁誘うかき氷の暖簾

2014年9月6日
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湯の児島へ架かる吊り橋・観月橋

雨に見舞われたかと思えば、青空と入道雲が現れ、水俣の海は空の色を映して移ろいでいきます。それにしても、美しい海。

湯の児(水俣市)の高台の坂道から眺める凪(な)いだ海は、おっとりとして、心に穏やかな時間を連れてきます。

湯の児温泉街を歩いてみました。昔ながらの路地に染み込んだ風情が思い起こさせてくれたものは、幼い日の夏の匂いです。それは、肌にまとった潮の匂いに入り交じったような甘い香り…。

遠い日の夏の記憶をたぐり寄せてくれる場所があります。湯の児島へと架けられた、吊り橋・観月橋のたもとにある茶屋「井上商店」がそうです。

風に揺れる氷の文字の暖簾、小上がりの板敷き、木枠の欄干、ビニールクロスがかけられたテーブルや手書きの品書きが懐かしい時間を連れてきます。

「店を始めて51年かねぇ。昔となーんも変わっとらんよ」と井上弘美さん(67)が飾り気のない笑顔で話します。「かき氷くださいっ! イチゴと白みつ!」。なんだかここでは、子ども心に返った気分でオーダーしたくなるのです。

「はい、どうぞ」。運ばれたのは、朝顔の形をしたガラスの器にてんこ盛りのかき氷。プラスチックのスプーンですくって食べながら、そっと目を閉じてみました…。

「井上商店」の品書き。リーズナブルな価格がうれしいのです

イチゴ味と白みつのかき氷。甘く懐かしい味


「私は撮らんでよ(笑)」と店の奥に隠れようとした井上弘美さんをパチリ

浮き輪をつけたまま路地を走り、海に向かった子どもの私が見えます。まだ若い頃の母が日傘をさして、海で遊ぶ私たちを見守っています。しょっぱい海の味と太陽の匂い、フナムシやカニの姿、それから、海から上がって入ったぬるめの船湯の温度が、鮮明に肌によみがえってきました。

「船湯は、今もまだ茶屋の下にあるよ」と井上さんが微笑むと潮風が渡って、甘く、くすぐったいひとときに包まれました。

「井上商店」では、海で遊ぶ浮き輪などが売られています。この路地の匂いが、幼いころの思い出をかきたてます

海から上がり、茶屋の下にある船湯でたわむれる蓑田淳さんの娘さんたち。小天(こはる)ちゃん(5・左)と小倖(こゆき)ちゃん(3・右)

実家が水俣で、親子で里帰りしていた蓑田淳さん(38)と娘の小愛(こいと)ちゃん(7カ月)

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井上商店

 

さて、湯の児島には縁起のいいカメがたくさんいる、という話を耳にしました。

おだやかな波をすぐそばに感じられ、木々の葉が頭上にかかる島の遊歩道は、なかなか風情があります。

小さなカメから大きなカメと、いくつもの石造りのカメが歩道に6体沿うように点在し、カメ探しをするのも楽しいものです。看板案内がある「願掛け亀」では、2メートルほど離れたカメの石像に小銭を投げて届けば、願いがかなうと言われています。

「湯の児でははるか昔、傷ついたカメが海から湧き出る温泉で湯浴みをして傷を治したと伝えられています。昔から水俣には、戦いで勝利の吉兆をもたらしたカメの話などたくさんあるんですよ」と「湯之児亀会」代表の原田憲二郎さん(66)は話します。

原田さんたちは、「お客さんたちに気持ちよく来ていただきたい」と、湯の児の地域環境整備に取り組んでおり、カメの存在が活動の元気の源だと微笑みます。

湯の児島にある「願掛け亀」。カメのところまで小銭が届くと願いがかなうそうです

風情ある湯の児温泉街をそぞろ歩くのもいいものです

湯の児温泉街で中村酒店を営み、「湯之児亀会」代表でもある原田憲二郎さんと妻の万里さん(66)。取材中「冷たいもんでも飲んで」とドリンクを差し入れしてくれました

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中村酒店 家族湯・中村温泉(湯之児亀会)