「九十九(つくも)ばね」と呼ばれたほど、たくさんの壁があったそうですが、自然災害や人災などで24カ所が現存するのみになりました

冬の空に阿蘇の山並みがくっきりと浮かび上がっています。白川の中流域に広がる菊陽町。肥沃な農業地帯として知られていますが、かつては「米は一粒も取れない」といわれるほどの原野だったそうです。そこに大変革をもたらしたのが江戸時代の初め、この地を治めた加藤清正です。

清正は白川の水を農業に生かすため、現在の大津町から菊陽町にかけて6カ所の堰(せき)と7本の井手(用水路)を造りました。この治水事業で台地が潤い、たくさんの農作物が取れるようになったのです。治水事業の中で象徴的なのが1608(慶長13)年に完成した馬場楠井手の一角にある「鼻ぐり井手」で、今も現役の農業用水路です。

公園にある高さ約2mの鼻ぐり井手の実物大模型。厚くて固い岩盤を、のみと金づちで削った当時の作業は容易ではありませんでした

馬場楠井手にかかる「井口眼鏡橋」。輪石と輪石を石楔(いしくさび)でとめる琉球式架橋法を用いるなど、県内でも貴重な石橋のひとつ

上から眺めると、用水路を掘る際に数メートルおきに岩盤を薄く残し、その一枚一枚に穴が開けられているのが分かります。白川の水流に多く含まれるヨナ(火山灰土砂)の堆積を防ぐ工夫とされ、通る水が渦を巻き、ヨナと一緒に流れていく仕組みです。

「数年前の台風で視界を遮っていた大木が倒れて鼻ぐり井手のすべてが明らかになったとき、これほど見事なものだったのかと驚きました」と、「菊陽町文化財ボランティアガイドの会」の岡本昭三さん(77)が教えてくれました。

「菊陽町文化財ボランティアガイドの会」の岡本昭三さん

「菊陽町鼻ぐり井手公園交流センター」のある「鼻ぐり井手公園」は、親子連れにも人気のスポット

清正と地元の人々が成し遂げた白川の治水事業は、菊陽町のみならず、熊本市まで及ぶ広大な農地を作り上げました。「鼻ぐり井手」を含む「白川流域かんがい用水群」は2018年、「世界かんがい施設遺産」に認定・登録されています。岡本さんは「先人の努力に支えられてきたこと。このことを守り、伝えていくのが私たちの役目です」と話してくれました。

「馬場楠井手の鼻ぐり」は2019年3月、歴史的農業土木遺産として県の史跡に指定されました

菊陽町鼻ぐり井手公園交流センター

菊池郡菊陽町曲手436-1

TEL.096-232-8644

※鼻ぐり井手に関する展示のほか、子どもが遊べる広場や遊具もあります

菊陽町文化財ボランティアガイドの会

菊池郡菊陽町曲手498-3 南部町民センター

TEL.096-292-3200

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